2013年12月27日金曜日

第7回子ども支援ネットワーク交流学習会感想より

第7回子ども支援ネットワーク交流学習会に参加された皆さんから寄せられたアンケートの一部を、参加された方々の職種別に掲載します。

1 教諭

 子どもや親を支える人々がこんなにいることに驚かされた。宮崎県でも子ども支援ガイドブックみたいなものがあるかもしれない。探してつながりたい。この講座で人の周囲にはいろいろな立場で支え合える環境ができているということを実感した。厳しい状態になった時こそ周囲の「生きていこう」という声はものすごく大事だと思った。

 学習会に参加させていただきありがとうございました。笑いもあり時々「そうそう」と思うこともありあっという間の1日でした。地域のつながりを鹿児島県内でも作り上げていきたいと思います。
支援ガイドブックは大変素晴らしいものだと思います。様々な専門機関のアクセスやネットワークが実用的にまとめられていると思います。模擬ケース会議では実際に多くのいろいろな立場からの意見が聞けて良かった。模擬ケース会議では模擬ケースに絞って会議の再現でのイメージをつかみたかった。(必要に応じて解説を加えながら・・・)

 模擬ケース会議の事例で挙げられていた兄,妹と同じようなパターンの生徒と関わったことがあった。毎日ほとんど家庭訪問を行ったがほとんど改善が見られなかった。やはり母子家庭であり母親は多忙,夜勤もあり子どもだけで夜を過ごすことも・・・。母親も何とか子どもたちに関わりたかったようであったができる状態ではなく・・・。恐らく実際にこのような例は沢山あるであろう。まだ自分の近辺ではそのケアに当たることができる組織が確立していない。無力さを感じるところである。
 発達障がいの診断が出る→学校職員「あの子は病気,だから自分に責任はない,仕方がない。」という発言をよく聞く。障がいとして認識が広まったことは,それを理解しそれに応じた支援(指導)をすすめていくために必要なことであったと思うが,それよりも学校職員は自分の責任回避の理由にしている感もある。

 教員ですが,福祉のこと(どんな取り組みをしているのか)を知らなすぎだと思うし,知ろうとしない現実もあります。子どもの育ちをファミリーでとらえる,一生としてとらえるなど良い視点をいただきました。

 学校職員はどうしても学校の中だけで問題を解決しようとしがちですが,地域には様々な「その道のプロ」がいるので,「子ども」のためにつながることネットワークが大切だと改めて思いました。

2 児童養護施設職員

 それぞれの立場での事例,悩み,対応策等の意見があり参考となるネットワーク交流学習会でした。地域で問題を抱えている人に寄り添い,声を掛け合って真正面から取り組んでいくことが大事だと思います。

3 民生委員・児童委員

 多職種の交流会で本土からも参加いただき貴重な事例や意見を聞くことができ参考にさせていただいた。

4 NPO団体職員

 大変勉強になりました。知らないことだらけでびっくりしました。是非参加者が活動を拡げられるような,繋がれるような情報交換・人材バンク的なオンラインの仕組みを作って時間・場所に関わらず参画できるとHappyです。沢山の学びをありがとうございました。中・北部で学習相談会を企画しているので,おきなわ子ども支援ガイドブックも紹介します。

5 児童家庭支援センター職員

 模擬ケースの事例から進んでいく内容だったので,すごく分かりやすく,より身近に感じられ想像しやすかったです。みなさんの意見が実際のケースに結びやすく,すぐに実践につなげられる学習会でした。

 子どもの育ちを支えるために家族支援の大切さは常日頃感じるところですが,おばあちゃんのところまで焦点を当てて考えていくというのは新しい視点で考えることができました。いろんな立場の方々の声やファシリテーターさんのコメントに,意識していなかったところ,別の角度からの視点や支援を考えることができました

 各々の職場・立場で,実際に関わっている事例について話を聞くことができて良かったです。模擬ケース会議ということで1つの事例をグループで討議するようなシステムを考えていましたが,そうでなく全体が一人の人の話を聞く質疑応答でもないことが多かったのに最終的にはまとまっていました。お二人のファシリテーターの進め方もさすがですが,参加者の空気感も良かったです。

6 スクールソーシャルワーカー

 日頃意識して支援していた視点での模擬ケース会議が行われ,また沢山の関係機関の情報が得られ良かったです。次回は医療分野を含めてのケース会議を行ってほしい。

アンケートを寄せていただいた皆さんに感謝いたします。

2013年12月9日月曜日

2013年 第7回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会 基調提案


基調提起


Ⅰ はじめに

 
 平成25年度の全国学力・学習状況調査は、沖縄県の小学生の教科の一部と中学生の全教科で正答率が最下位という結果になりました。この調査からは、子どもの学力と家庭の経済的・社会的状況の格差が子どもの学力に影響することも指摘されています。後述する「40人学級における学力保障にかかわる少人数学習の研究」では、子どもの学びには、さまざまな要因が複合化、重層化して影響を及ばしていることが明らかになっています。学力の獲得が困難な子どもたちに着目し、一人ひとりの実態に即して、学校、家庭、地域、福祉等様々な立場の人たちが連携、協働して取り組むことが必要です。
  今回作成した沖縄県の子ども、親たち・家庭、社会が抱える課題の図は、子どもの学びや暮らしの現状を表すデータを抽出し相互の関連を示す試みです。第7回の学習会が、この図に示された課題を共有し、今後のネットワークづくりに資する場となることを願います。



Ⅱ 子ども、親たち・家庭、社会が抱える課題 ―沖縄の実態を切り口に―

1 社会、親たち・家庭の現状

(1)社会

①雇用状況の悪化

 沖縄県の経済状況は依然厳しい状態にあり、子どものいる世帯に深刻な影を落としています。完全失業率は6.8%で全国1位、県民所得は平成25年度の調査で全国最下位という状況です。全国3位の生活保護受給率は、高齢者の数の多さと関係していますが、近年、働ける世帯の生活保護受給率が徐々に増え、全体の生活保護受給率を押しあげているという指摘があります。

②地域コミュニティーの弱体化
 ユイマールに象徴される相互扶助の土台となる地域社会も危うい状況にあり、その一端が那覇市の自治会組織率20.9%という調査結果から浮かび上がってきます。また「今住んでいる地域の行事に参加したことがある」と答えた沖縄県の小学生の割合が21.4%(全国35.8%)という結果は、子どもたちと地域との結びつきが薄くなっていることを表し、世帯の孤立化と地域のコミュニティー機能の弱体化が進んでいることを示しています。

(2)親たち・家庭

①子育ての孤立

 15歳から19歳までの若年出産1.086%、全国1位という状況と、育児に関する相談の入り口とも言える乳幼児検診の受診率が80%前後に止まっている状況は、核家族率の高さと相まって育児に関する情報やアドバイスが届きにくいという実態をもたらし、結果的に育児の不安や不適切な養育をひき起こす要因の一つになっている可能性があります。

②就労・経済状況の悪化

 国立社会保障・人口問題研究所で貧困問題を研究しておられる阿部彩さんが2004年の国民生活基礎調査を基に推計した結果では、日本における母子世帯の貧困率は66%で、両親と子どもだけの世帯など他の家族形態に比べ突出して高くなっています。沖縄県は、この子どもの貧困のリスクが高いひとり親世帯の出現率が全国1位、母子世帯の母親の月平均の勤労収入10万円未満が39.8%です。母親に対するアンケートで、一番の悩みが生活費という結果からも、母子世帯の厳しさ、親の不安の大きさが分かります。
  また沖縄は、非正規雇用率が全国1位で、働いている人の44.5%が非正規雇用という不安定な雇用環境にあります。

2 子どもたちの現状

「1 社会、親たち・家庭の現状」で述べた「経済状況の悪化」「孤立」「地域コミュニティーの弱体化」は、貧困などにより学びが阻害されるリスクが高い世帯の子どもたちの課題に結びついています。

(1)1日の生活から

①きびしい養育環境の子どもたち

 2010年に沖縄タイムス社が沖縄県内の小中学校の教員を対象にして行ったアンケートでは、夜、子どもだけで過ごしている子どもがいると答えた教員の割合が56%、給食以外の食事を十分とれない子どもがいると答えた教員が44.4%という結果になりました。また夕食を親などと一緒に食べていると答えた小学生66.4%、中学生が50.2%という全国学力・学習状況調査における結果沖縄の結果からは、半数近い子どもたちが子どもだけで夕食を食べているという家庭の状況が明らかになってきました。   
  親や兄弟に囲まれて過す時間が保障されず、家庭が子どもの安心や安全・健康を守る場所になっていないという厳しい状況下にある子どもが少なくないことになります。

②放課後の居場所

 那覇市が市内の児童に対して行った調査では、全児童の31.2%が学校から帰っても家に誰もいない状況にあることが分かりました。このような子どもたちの居場所となる社会資源が児童クラブですが、沖縄県の学童保育料の平均は1万円超と全国平均の2倍と高額であるだけでなく、家庭の状況に合わせた減免措置を行っている市町村の割合は4%とわずかです。
  学齢期の児童生徒に対し家庭の養育を補足する児童クラブ等の社会資源を拡充するとともに、これを利用する子どもと親の生活実態に即した改善をすすめる取り組みが求められます。
  今年、少女たちを県外へ連れ出し売春をあっせんする業者が摘発されるという事件が報道されました。平成24年中における少年の補導及び保護の概況によると、青少年保護育成条例違反等の犯罪被害にあった少女の人数は235人、全国5位です。大人のモラルの問題であることは言うに及びませんが、被害にあった少女たちの多くは、家庭や学校に居場所がないなどの背景があるという指摘もあります。

③学びを支えるために

 教育委員会や学校の努力にも関わらず、沖縄県の学力テストの正答率は最下位で低迷しています。
  確かな学力を保障していくためには、学びの土台となる乳幼児期からの生活習慣や遊びなどの「体験の質と量」をより豊かで確かなものにしていく取り組みが必要です。
  平成23年度の沖縄県民健康・栄養調査によると1歳から6歳までの朝食の欠食率は16.4%で全国平均7.2%の2倍以上の数値になっています。また全国学力・学習状況調査では「自然の中で遊んだことや自然観察をしたことがありますか。」の質問に「ない」「どちらかといえばない」と答えた小学生は全国平均で18.8%、これに対し沖縄県は24.6%という結果になりました。このような現状を踏まえた幼・保、小・中・高校それぞれの、また接続・連携した授業内容の工夫や改善が必要です。
  さらに教師の側に意識改革が求められることを示す調査結果があります。全国学力・学習状況調査で学習方法(適切にノートを取るなど)に関する指導をしていると答えた小学校の教師の割合は、全国平均は56.3%に比して、沖縄は35.1%にとどまっています。さらに、児童生徒の発言や活動の時間を確保して授業していると答えた小学校の教員は、全国平均45.3%であるのに対し、沖縄は32.4%です。


(2)ライフステージから

①きびしい養育環境

 1歳から6歳までの子どもたちの約6分の1が何らかの理由で朝ご飯を食べずにいます。これは全国平均の2倍の値です。そして、夜子どもたちだけで過ごしている実態と合わせて考えると、沖縄の子どもたちの養育環境は、きわめてきびしいと言わざるを得ません。

②非行と不登校問題

 中学生の非行は深刻です。2012年の刑法犯少年に占める中学生の割合は61%で全国1位、中学生の再犯率43.6%、共犯率56.2%、ともに全国1位となっています。
  高校生の不登校は1000人あたり28.5人で全国2位の高い割合になっています。また不登校の小学生も多く、1000人あたり4.1人で全国5位の数値になっています。高校を中退する生徒は全国3位の高い割合です。さらに15歳から34歳に占めるニートの割合が全国1位という状況です。
  全国学力・学習状況調査では、「自分には良いところがない、どちらかといえばない。」と答えた小学生が24.6%、中学生で34.4%となっています。また難しいことでも失敗を恐れないで挑戦しているかという自己効力感に関する質問に対し「あてはまらない、どちらかといえばあてはまらない」と答えた小学生が26.5%、中学生が34.4%となっています。いずれも小学生に比べ中学生の割合が高くなっている傾向があります。また自己・他者肯定感に関する質問に対しては、「自分の考えや気持ちを理解してくれる友達はいない、どちらかといえばいない。」と答えた小学生が14.4%、中学生が13.7%という結果になっています。非行や中途退学の背景には、自尊感情や自己効力感、自己他者肯定感の低さがあると考えられます。これらはまた、学習や進学の意欲を低下させる要因でもあります。これらの要因が重なり合い、学びが阻害されることによって基礎教育が十分に保障されないままきびしい就労と生活を強いられていると考えられます。


3 取り組みの方向性

(1)「40人学級における学力保障にかかわる少人数学習の研究」報告書の活用

 今回、子どもや親、社会の現状を整理するにあたって、福岡県人権・同和教育研究協議会の「40人学級における学力保障にかかわる少人数学習の研究」が示した「今日的な差別(社会の歪み)によって育ちと学び、暮らしが阻害されている現実」を活用しました。
 学力保障にかかわる少人数学習の研究では、福岡県内の4つの中学校区において、子どもの学力獲得を阻害している要因を明らかにし、根本的な解決を目指す実践・研究が進められました。各校区では授業改革を進めていく中で、子どもや親のくらし、学力の土台となる生活体験、家庭の教育力に着目しています。
 研究の総括の中で、子どもや家庭をとりまく状況の厳しさが重層化し、複合化していること、そして、表面化している課題の奥には内在化している課題が隠されていることを明らかにしています。例えば「学力低下」「進路選択の幅の狭さ」「高校中途退学」といった表面化した課題には、「学習・進学意欲の低下」「自尊感情の低下」「ロールモデルの不足」といった課題が内在していると分析しています。これら10年間の実践・研究は、沖縄の教育にとって示唆に富んだ内容になっています。

(2)おきなわ子ども支援ガイドブックの取り組み

 子どもたちが抱え込まされている課題の解決のためには、子どもの育ちや学び、親の暮らしにかかわる様々な人たちのネットワークとチームワークが必要となります。平成20年度沖縄県ひとり親世帯等実態調査では、不安や悩みを「だれにも相談しない」と答えた割合が13.4%で「家族・親族」「友人・知人」に次いで第3位という結果がでています。相談相手もなく孤立し、必要な情報や支援が届かない状況にある家庭が多く存在しています。
 子ども支援ネットワーク交流学習会実行委員会では、2012年におきなわ子ども支援ガイドブックの沖縄県版、2013年に那覇市版を作成しました。子どもの育ちや学びへの支援を親支援,家族支援を視野にいれて考えるという方針にもとづいて,福祉・教育・労働等にまたがる子育てや教育,暮らしに関する支援の情報が一覧できるようにしました。作成されたガイドブックが、それぞれの立場で子どもたちに関わる人たちを応援し、ネットワークを生む触媒となることを願い、学校やNPO団体、自治体の母子支援担当課等に配布しました。

(3)九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会

 以上、沖縄の実態を切り口として、表面化しているものとそこに内在するものを整理し、子どもや親たち・家庭、社会が抱えている課題の分析を試みました。さまざまな要因が重層的複合的に子どもの暮らしや学びを阻害しているという認識を踏まえ、これからの模擬ケース会議を通してネットワークとチームワークの可能性と課題克服のための取り組みを共有していきましょう。
 私たちが目指すものは、子どもが学ぶことをあきらめず、これからの社会の主体者、自立した市民として育ちゆくことができる条件、環境を整えることです。その営みは、持続可能な社会の構築を展望することでもあります。第7回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会を契機に、九州・沖縄の各地になるネットワークの構築と協働した取り組みを拡げていきましょう。