2015年2月20日金曜日

3年保育を行なう幼稚園が増えることの意味

 就学前の子どもたちへの学びや体験の機会は、すべての子どもたちを対象にしているとはいえません。特に保育園は、親の就労に付随する形で制度設計がなされてきました。保育園や幼稚園で保障されるべき幼児教育の対象からもれていく子どもたちについては、もっぱら待機児童問題として取り上げられてきました。しかし、親の就労形態や経済的な状況により、幼児にうけさせたい教育の機会にも格差が生まれている現実があります。
さらに、このことは幼児とその保護者に寄り添う保育士や教師との接点がもてなくなることを意味し、必要な支援や情報提供の機会の格差へとつながる怖れがあります。

 沖縄県子ども生活福祉部が平成25年度に実施したひとり親等世帯実態調査の概要報告書によると、日中、仕事中に保育所を利用している母子家庭の割合は47.5%でした。次に幼稚園を利用していると答えた割合は25.5%で残りの約27%は親や親の家族と過ごしているという結果になっています。
 平成21年の時点で県内には245箇所の幼稚園が設置されており、そのうち5歳児のみを対象にした1年保育を実施している幼稚園が152カ所と大部分を占めています。このように沖縄の幼稚園はそのほとんどが1年保育ですから、さきほどのデーターから推測すると約52.5%の母子世帯の子どもたちの幼児教育の開始年齢は5歳となります。

 さて、沖縄県が公表している平成25年度ひとり親世帯等実態調査には、親の就労形態しか表されていませんが、平成15年度の沖縄県ひとり親世帯等実態調査報告書には平均帰宅時間の調査結果が報告されています。
選択肢は①午前7時~午後2時台、②午後3時~4時台、③午後5時~6時台、④午後7時~8時台、⑤午後9時~10時台、⑥午後11時~12時台、⑦午前0時以降、⑧自宅が職場である、⑨交代制のため不規則、となっています。
 この調査によると帰宅は午前0時以降と答えた母子世帯の割合が12パーセントとなっています。これを、夜間の仕事に従事しているケースと考えると、少なくとも約1割の母親たちは日中は家庭にいると考えられます。この世帯に保育園の対象年齢の幼児がいたとして、母親が保育園での教育を望んだとしても、さしあたって公立保育所や私立の認可保育園にあずけることはできません。
 認可外保育園に預けるという選択がないでもないですが、認可外保育園の保育料は保護者の収入に合わせた軽減はなく、おおむね3万円ほどの保育料はひとり親の収入には重い負担になります。
 このように夜間に就労している母子世帯の子どもたちが、幼児教育の対象になるのも、近くの公立の幼稚園が2年保育をしていれば4歳からですが、さきほど紹介したデーターからも明らかなように、ほとんどの子どもたちの幼児教育のスタートは5歳からと考えられます。

 さて、上記のように幼児教育の開始年齢が親の就労や家族の形態によって違いが生じている現実があります。これに現状に対し国は幼児教育をどのようにとらえているのでしょうか。
 
 平成17年の中央教育審議会の答申「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育のあり方について」では人の一生のなかで幼児期の重要性について、こう述べられています。「人の一生において,幼児期は,心情,意欲,態度,基本的生活習慣など,生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期である。幼児は,生活や遊びといった直接的・具体的な体験を通して,情緒的・知的な発達,あるいは社会性を涵養し,人間として,社会の一員として,より良く生きるための基礎を獲得していく。」

そして、幼児教育の意義について「この幼児期の発達の特性に照らした教育とは,受験などを念頭に置き,専ら知識のみを獲得することを先取りするような,いわゆる早期教育とは本質的に異なる。幼児教育は,・・・・生涯にわたる学習の基礎を作ること,「後伸(あとの)びする力」を培うことを重視している。幼児は,身体感覚を伴う多様な活動を経験することによって,豊かな感性を養うとともに,生涯にわたる学習意欲や学習態度の基礎となる好奇心や探究心を培い,また,小学校以降における教科の内容等について実感を伴って深く理解できることにつながる「学習の芽生え」を育んでいる。・・・だからこそ,幼児教育にかかわるに当たり,家庭や地域社会では,幼児の持つ良さや幼児の可能性の芽を伸ばす努力が求められる。・・・」と述べています。

 「子ども子育て支援新制度について、多くの人は待機児童解消を目的とした制度ではないかと考えているかもしれない。しかし、本来の目的は、幼児教育の拡充である」と私の知人が話していました。
 子ども子育て支援新制度の開始を機に、沖縄ではまず3年保育を行なう幼稚園を増やす施策が必要だと思います。幼稚園は、日中保育に欠ける・・・という要件がありませんから、さきほど述べたケースでも子どもたちに早期に幼児教育の機会を保障することができます。
 また保育士や教師が子に関わることにより、生きづらさや悩みを抱えている家庭や親に対する支援につながる可能性が高まります。

全ての子どもたちに幼児教育の光があたり、格差が解消されるように今後の市町村の取り組みに注目したいと思いました。

2015年2月14日土曜日

アールブリュットを高校生が体験する授業実践


2月8日滋賀県で行われたアールブリュット・ネットワークフォーラム2015に参加する機会があり、富山県や滋賀県の美術の教師がアールブリュットを起点にさまざまな取り組みをされている報告を聞くことができましたので、紹介します。


その前に、このフォーラムは、アールブリュットに関する各地の団体の取り組みを発信し、各団体や個人のネットワークづくりに寄与しようと企画されたものです。

フォーラムには、富山県の特別支援学校の先生、滋賀県の高等学校の先生が登壇したほか、その後の事例報告では、鳥取県保健福祉部全国障がい者芸術・文化祭課長、佐賀県文化スポーツ部文化課課長、滋賀県文化・スポーツ担当理事が登壇し、それぞれの県の取り組みを報告されていました。

 参加された方々には、ブログに取り上げ、氏名を公表することについて了解を得ていませんので、ここではそれぞれの肩書きだけを記載します。

 まず、滋賀県の先生の実践について、私が感じたことを書きます。

 その先生が勤めておられる滋賀県の県立高校は、県内有数の進学校として京都大学を含め国公立大学への現役合格生を多数輩出している学校です。
その学校の美術の先生が報告者の先生です。
 先生は、高校2年生の美術の授業の約半分をアールブリュットの作品の鑑賞の授業に位置づけています。課題解決型の授業を実践している先生のユニークなところは、アールブリュットを取り上げていることだけではありません。先生の授業はNO-MAというアールブリュットのコレクションを持っている美術館が地元にあるというメリットを生かし、先生がいわばコーディネーターとなって、アールブリュットの専門家や作家を招き、その方たちが講師として語り、生徒と対話する授業を組み立てていることです。

 生徒たちはNO-MAの学芸員からアールブリュットについて学ぶだけでなく、作品を直に見ることを体験します。また、NO-MAの美術展に際して来県した作家、宮間栄次郎さんにインタビューし、作家の生の声を聞くという体験もありました。これらの体験的な学習、探求型の学習のまとめとして、生徒たちが自ら校内の図書室でアールブリュットの展示会を企画・運営しました。

 アールブリュットの作品を授業に取り上げることについて、先生は評価が定まっていないからこそ、生徒自身がどう考えるかという授業ができる。アールブリュットを取り上げることは、作品を起点として、作者、支援者、福祉制度などいろいろな側面からアプローチすることができる、いわばいろんな引き出しがあるのだとおっしゃっていました。

 先生が、生徒のレポートを紹介する中で注目していたのが、アールブリュットを知ることが生徒の気持ちの変化に繋がったことです。ある生徒は、作家の宮間さんの考え方や生き方に触れ、「生き生きとして楽しそうだとぼんやりと思いました。」と書いていました。生徒が、アールブリュットの作品や作家を道案内にして、自分の生き方、考え方を振り返る過程を辿ることができたことに手応えを感じたそうです。

 作品を送り出す側、受け止める側が一つの輪になって結ばれ、そこから生徒の心に未来につながる種が抱かれた、そんな印象をもった実践報告でした。