2014年11月30日日曜日

第8回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会 基調提起

基調提起

1 はじめに

 私たちの地域が将来に亘って持続可能な社会となるためには、次世代の担い手となる子どもたちの育成が最優先の課題です。沖縄は2013年の出生率が1.94と全国平均の1.43を上回り、出生数が死亡数を上回る地域として、日本の中でも稀有の存在です。しかし、日々誕生してくる子どもたちが、健やかに成長し、くらしやすい社会を創造する主体者となるためには、教育の機会が保障され、どのような境遇であっても自己実現を目指すことができるよう、社会全体で子どもたちを育んでいかなければなりません。

しかし、近年、日本においては、きびしい経済状況におかれている人たちの層が、さらに大きくなっています。子どもや家庭(親たち)が抱え込まされている課題は、重層化・複合化しており、個の取り組みでは解決が困難な状況です。課題解決のためには、さまざまな立場の人たちがネットワークでつながり、連携・協働してチームワークで総合的にアプローチしていくことが必要です
 

2 沖縄県の教育、社会をめぐる状況

(1)「全国学力・学習状況調査」と「少年の補導及び保護の概況」から

 小学6年生と中学3年生を対象に行われた2014年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、これまで全国最下位が続いていた沖縄は、小学校(公立のみ)の成績が大幅に向上し、算数Aは全国6位となりました。沖縄県の試算では、全4科目(国語A・B、算数A・B)の総合では24位。中学校は前年に続いて各科目とも最下位でしたが、国語B以外の3科目で全国平均との差を縮めています。

 文部科学省のHPでは、沖縄県の学校での取り組みとして、教員の研修活動の強化、自分で調べたことや考えたことを分かりやすく文章に書かせる指導を行うなど指導方法の改善、国語・算数における「補充的な学習」「発展的な学習」の指導の強化を挙げています。

 教師の指導力の向上と授業改善に向けた取り組みの結果の表れととらえると共に、このことが子どもたちの生きる力にどう現れていくのかしっかりと実態をみていき、子どもたちの育ちと学びを検証して行く必要があります。

 一方、警察庁による「平成25年中における少年の補導及び保護の概況」によると2013年における刑法犯少年に占める中学生の割合で沖縄県は59.0%で3年連続増加しており、全国1位の割合です。2010年の沖縄県警の統計によると刑法犯少年のうち非行歴のある少年の割合が41.6%、複数の犯行を行った少年の割合が56.3%と共に全国1位で、少年非行の低年齢化とともに高い再犯率と共犯率が問題となっています。これらの結果をしっかりとらえ、生きる力としての学力という視点を持って取り組んでいかなければなりません。

 沖縄県の少年院を仮退院した46人の少年たちを対象にした、2013年の実態調査の報告によると保護者からの「ネグレクト」「放任」の扱いを受けた少年が65.2%(30人)、「暴力・暴言」を受けた少年が34.8%(16人)とほぼ全員が保護者からなんらかの虐待を受けていたことが分かりました。また60.9%(28人)の少年たちが生活保護レベルの貧困家庭で暮らしていたことが分かりました。

家庭の経済状況と子どもの学力や進学の状況との間に相関関係があることが全国学力・学習状況調査結果の分析によって明らかになっています。沖縄県の調査では、生活保護世帯の中学生の高校進学率は84%で、県平均の95.8%と10ポイント以上の開きがあり、世帯の状況が子どもの進学に重く影を落としている一端が明らかになっています。子どもや家庭(親たち)が抱え込まされている重層的・複合的な課題を明らかにし、課題解決に向けて協働・連携による多面的な取り組みが必要です。

(2)子ども、家庭・親たち、社会が抱える課題

 私たちは、子どもや親たちの現状や課題をさまざま立場の方たちと共有するために、子どもや親たちの現状を示す調査データを整理し、第7回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会において報告しました。あえて厳しい現状を示す数値に絞った具体的なデータにより、沖縄の子どもたちの課題の背景にある、親や大人たち、そして社会が抱える課題が明らかになってきました。九州各県においても具体的なデータにより、子どもたちの課題の背景にある親やおとなたち、そして社会が抱える課題を明らかにしているところです。

①子どもたちが抱える課題

 子どもたちの1日の生活からは、基本的生活習慣、親と過ごす時間、親子のコミュニケーションの現状が浮かび上がってきます。さらにライフステージからは、不登校や中退、ニート数の多さから、沖縄の状況の深刻さが分かります。

【1日の生活からみた子どもたちの課題】

・1歳から6歳までの子どもの朝食の欠食率 沖縄16.4%、全国7.2%(平成23年度沖縄県民健康・栄養調査)

・家の人(兄弟を除く)と普段夕食を一緒に食べている小学生:沖縄66.4%、全国70.9%、中学生:沖縄50.2% 全国59.6%(平成25年度全国学力・学習状況調査)                 

・家の人(兄弟を除く)と学校での出来事について話している小学生:沖縄45.5%、全国53.2%、中学生:沖縄35.1%、全国41.9%(平成26年度全国学力・学習状況調査)

【ライフステージからみた子どもたちの課題】

・中学生の不登校人口千人あたり 沖縄30.4人、全国26.9人

・高校生の不登校生徒数人口千人あたり 沖縄30.3人、全国16.7人

・高校生の中途退学率 沖縄2.1%、全国1.7%

(以上、平成25年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査)

・15歳から34歳に占めるニートの割合:沖縄2.6%、全国2.1%、(2010年総務省の労働力調査)

②親たち・社会が抱える課題

親たちの雇用や経済状況に関するデータからは、家庭の経済的困窮の状況と、その要因の一つになっている非正規雇用の占める割合の高さという沖縄の厳しい現実が見えてきます。

【家族・親たちが抱える課題】

・県別貧困率(2007年) 沖縄29.3%、全国14.4%

・県別ワーキングプア率(2007年) 沖縄20.5%、全国6.7%「近年における都道府県別貧困率の推移について-ワーキングプアを中心に」戸室健作〈山形大学〉より

・家の人(兄弟を除く)は授業参観や運動会などの学校行事によく来ると答えた小学:沖縄72.4%、全国81.2%、中学生:沖縄36.4%、全国49.9%(平成26年度全国学力・学習状況調査)

【沖縄県の社会が抱える課題】

・非正規雇用率 沖縄44.5%、全国38.2%(2012年就業構造基本調査)

・核家族率 沖縄60.5%、全国56.4%(平成22年国勢調査)

・自治会への加入率 20.9%(平成25年那覇市) 

 また、表1の「平成25年度沖縄県労働条件等実態調査」からは、育児や介護と仕事の両立を困難している雇用環境が明らかになっています。


平成25年度沖縄県労働条件等実態調査

①年休制度がない(労基法39条、89条違反の恐れ)約2割(158事業所)

②育児休業制度を就業規則等で定めず(労基法89条違反の恐れ)約3割(239事業所)

③介護休業制度を就業規則等で定めず(労基法89条違反の恐れ)約4割(340事業所)

④パートに育児介護休業制度を適用せず(育児介護休業法6条、12条違反の恐れ)約5割(252事業所)

⑤セクハラ対策に取り組んでいない(男女雇用機会均等法11条違反の恐れ)約6割(457事業所)

※県内788事業所(④のみ511事業所)を対象に調査

(3)高等学校等就学支援金に関する課題

 今年度から始まった高等学校等就学支援金制度は、学校現場に大きな問題を引き起こしています。この制度が、沖縄の親や子どもたちが抱えていた課題を表面化させ、世帯の状況によっては、さらに重い負担として親や子どもたちを苦しめています。

 かつての高等学校無償化制度は、高等学校に通うすべての生徒が対象であるために特別な申請手続きがは不要でした。それに対し、新しい制度は親の所得水準によって、授業料に相当する就学支援金の受給の可否が分かれるために、保護者の市町村民税所得割額を証明する書類と申請書を提出しなければなりません。

 実質的に、ひとり親世帯となっているのにも関わらず、離婚の手続きをしていないというケースがありました。この場合、父親と母親両方の所得の証明が必要ですが、片方がその提出を拒否して申請が滞っていて、世帯が経済的に困窮しているにも関わらず、申請書類の不備で支援金が受けられない世帯になってしまう可能性があります。また、学校では授業料を納める生徒と納めない生徒が存在することにより、親の所得格差に生徒が直面するという新たな状況が生まれています。学校では事務職員が自治体の納税担当窓口や他校の事務職員と情報交換しながら、様々なケースに丁寧に対応して課題解決に努めています。今年度、申請に課題があるケースの件数には学校間で偏りがあることが明らかになりました。7月からは高校生等奨学給付金制度もはじまっています。来年度は申請の対象が1,2年生ということで2倍になります。支援金が受けられないケースが増加するのを防ぐために、準備を進めることや教員(担任等)がこれらの状況をふまえ、子どものくらしをつかむための動きが急務の課題です。

3 課題解決のために

(1)子ども支援と家庭支援をセットにして考える

 福岡県同教の学力保障にかかわる調査研究で作成された「今日的な差別によって育ちと学び、暮らしが阻害されている現実」(図1)には、表面化している子どもたちの課題には、家庭や親、そしてその暮らしの基盤となる社会の課題が重層的・複合的に影響していることが示されています。

 子ども支援と家庭支援はセットである、という視点で現状を把握し、課題解決の手立てを考える必要があります。しかし、課題が複雑であるために、担任や学校といったマンパワーやひとつの機関で対処するには限界がある場合や、既存の制度では対応できない現実に直面することがあります。そのため関わる人が孤立することなく、さまざまな立場の人たちと連携して相互補完的にアプローチすることが求められます。


図1




(2)子ども支援ガイドブックの作成と活用

 2007年8月に、第1回目の九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会が沖縄大学で開催されました。私たちは翌2008年に行われた第2回の交流学習会で問題提起された高校授業料減免制度について学習し、沖縄県の課題とその改善案をまとめ、沖縄県高教組を通じて県教育庁に要望を行いました。その結果、申請手続きに関する説明会を前倒しすること等の改善策が県の同意を得て、各学校に周知されました。2009年からは、子ども支援ガイドブックの作成に取り組み、2010年に最初のガイドブックを完成させ、第4回の交流学習会で参加者に配布しました。その後、改良を行い2012年に沖縄県版を発行し、2013年には、那覇市教育委員会やこどもみらい課、子育て応援課、こども政策課の協力を得て、那覇市版を発行しました。その年の12月7日に行われた第7回の交流学習会では、沖縄の子どもたちや親たちが抱え込まされている課題を数々のデータをもとに示した「沖縄の子ども、家庭・親たち、社会が抱える課題」図を作成し、基調提起として報告しました。

 子どもや家庭の実態を踏まえ、当事者の意思を尊重しながら、さまざまな機関や人がつながりながら協働して支援を続けるためには、必要な支援にたどり着くことができる情報源が必要です。また支援する側も自己の専門分野以外の情報を得ることは、支援のためのネットワークづくりを促進することにつながります。おきなわ子ども支援ガイドブックは、ネットワークづくりに資することを目的に作成されました。

 今回の学習会が、さまざまな立場の方たちが実践を交流し、子ども支援のつながりと更なる広がりのきっかけになれば幸いです。

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