2015年3月1日日曜日

2015年 おきなわ子ども支援ガイドブック 南部版を更新しました。

 九州沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会実行委員会と沖縄県教組島尻支部との協働で編集中の「2015年 おきなわ子ども支援ガイドブック」は、該当市町村の担当課の方々のご協力を得てまもなく完成予定です。

 このガイドブックは、子どもや若者が経済的に困窮していても、学びの機会を失うことがない地域社会をめざして、子どもからお年寄りまでの支援を網羅し、支援する方たちのネットワークづくりを応援するために作成されました。
 もちろん、子育て中のご家族、進学を控えた生徒、就職に悩んでいる方たちにも必要な情報を掲載し、お役に立てるように作成しています。
 
 ガイドブックのPDFファイルを更新してダウンロードができるようにしましたので、お知らせします。
ダウンロード希望の方は、このブログの右側にあるガイドブックの画像をクリックして下さい。

3月完成まで追い込み作業中です。
完成後は南部地区の各小中学校と市町村に配布予定です。
また、沖縄県教組島尻支部では、ガイドブックの活用方法についての研修会も予定しています。



2015年2月20日金曜日

3年保育を行なう幼稚園が増えることの意味

 就学前の子どもたちへの学びや体験の機会は、すべての子どもたちを対象にしているとはいえません。特に保育園は、親の就労に付随する形で制度設計がなされてきました。保育園や幼稚園で保障されるべき幼児教育の対象からもれていく子どもたちについては、もっぱら待機児童問題として取り上げられてきました。しかし、親の就労形態や経済的な状況により、幼児にうけさせたい教育の機会にも格差が生まれている現実があります。
さらに、このことは幼児とその保護者に寄り添う保育士や教師との接点がもてなくなることを意味し、必要な支援や情報提供の機会の格差へとつながる怖れがあります。

 沖縄県子ども生活福祉部が平成25年度に実施したひとり親等世帯実態調査の概要報告書によると、日中、仕事中に保育所を利用している母子家庭の割合は47.5%でした。次に幼稚園を利用していると答えた割合は25.5%で残りの約27%は親や親の家族と過ごしているという結果になっています。
 平成21年の時点で県内には245箇所の幼稚園が設置されており、そのうち5歳児のみを対象にした1年保育を実施している幼稚園が152カ所と大部分を占めています。このように沖縄の幼稚園はそのほとんどが1年保育ですから、さきほどのデーターから推測すると約52.5%の母子世帯の子どもたちの幼児教育の開始年齢は5歳となります。

 さて、沖縄県が公表している平成25年度ひとり親世帯等実態調査には、親の就労形態しか表されていませんが、平成15年度の沖縄県ひとり親世帯等実態調査報告書には平均帰宅時間の調査結果が報告されています。
選択肢は①午前7時~午後2時台、②午後3時~4時台、③午後5時~6時台、④午後7時~8時台、⑤午後9時~10時台、⑥午後11時~12時台、⑦午前0時以降、⑧自宅が職場である、⑨交代制のため不規則、となっています。
 この調査によると帰宅は午前0時以降と答えた母子世帯の割合が12パーセントとなっています。これを、夜間の仕事に従事しているケースと考えると、少なくとも約1割の母親たちは日中は家庭にいると考えられます。この世帯に保育園の対象年齢の幼児がいたとして、母親が保育園での教育を望んだとしても、さしあたって公立保育所や私立の認可保育園にあずけることはできません。
 認可外保育園に預けるという選択がないでもないですが、認可外保育園の保育料は保護者の収入に合わせた軽減はなく、おおむね3万円ほどの保育料はひとり親の収入には重い負担になります。
 このように夜間に就労している母子世帯の子どもたちが、幼児教育の対象になるのも、近くの公立の幼稚園が2年保育をしていれば4歳からですが、さきほど紹介したデーターからも明らかなように、ほとんどの子どもたちの幼児教育のスタートは5歳からと考えられます。

 さて、上記のように幼児教育の開始年齢が親の就労や家族の形態によって違いが生じている現実があります。これに現状に対し国は幼児教育をどのようにとらえているのでしょうか。
 
 平成17年の中央教育審議会の答申「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育のあり方について」では人の一生のなかで幼児期の重要性について、こう述べられています。「人の一生において,幼児期は,心情,意欲,態度,基本的生活習慣など,生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期である。幼児は,生活や遊びといった直接的・具体的な体験を通して,情緒的・知的な発達,あるいは社会性を涵養し,人間として,社会の一員として,より良く生きるための基礎を獲得していく。」

そして、幼児教育の意義について「この幼児期の発達の特性に照らした教育とは,受験などを念頭に置き,専ら知識のみを獲得することを先取りするような,いわゆる早期教育とは本質的に異なる。幼児教育は,・・・・生涯にわたる学習の基礎を作ること,「後伸(あとの)びする力」を培うことを重視している。幼児は,身体感覚を伴う多様な活動を経験することによって,豊かな感性を養うとともに,生涯にわたる学習意欲や学習態度の基礎となる好奇心や探究心を培い,また,小学校以降における教科の内容等について実感を伴って深く理解できることにつながる「学習の芽生え」を育んでいる。・・・だからこそ,幼児教育にかかわるに当たり,家庭や地域社会では,幼児の持つ良さや幼児の可能性の芽を伸ばす努力が求められる。・・・」と述べています。

 「子ども子育て支援新制度について、多くの人は待機児童解消を目的とした制度ではないかと考えているかもしれない。しかし、本来の目的は、幼児教育の拡充である」と私の知人が話していました。
 子ども子育て支援新制度の開始を機に、沖縄ではまず3年保育を行なう幼稚園を増やす施策が必要だと思います。幼稚園は、日中保育に欠ける・・・という要件がありませんから、さきほど述べたケースでも子どもたちに早期に幼児教育の機会を保障することができます。
 また保育士や教師が子に関わることにより、生きづらさや悩みを抱えている家庭や親に対する支援につながる可能性が高まります。

全ての子どもたちに幼児教育の光があたり、格差が解消されるように今後の市町村の取り組みに注目したいと思いました。

2015年2月14日土曜日

アールブリュットを高校生が体験する授業実践


2月8日滋賀県で行われたアールブリュット・ネットワークフォーラム2015に参加する機会があり、富山県や滋賀県の美術の教師がアールブリュットを起点にさまざまな取り組みをされている報告を聞くことができましたので、紹介します。


その前に、このフォーラムは、アールブリュットに関する各地の団体の取り組みを発信し、各団体や個人のネットワークづくりに寄与しようと企画されたものです。

フォーラムには、富山県の特別支援学校の先生、滋賀県の高等学校の先生が登壇したほか、その後の事例報告では、鳥取県保健福祉部全国障がい者芸術・文化祭課長、佐賀県文化スポーツ部文化課課長、滋賀県文化・スポーツ担当理事が登壇し、それぞれの県の取り組みを報告されていました。

 参加された方々には、ブログに取り上げ、氏名を公表することについて了解を得ていませんので、ここではそれぞれの肩書きだけを記載します。

 まず、滋賀県の先生の実践について、私が感じたことを書きます。

 その先生が勤めておられる滋賀県の県立高校は、県内有数の進学校として京都大学を含め国公立大学への現役合格生を多数輩出している学校です。
その学校の美術の先生が報告者の先生です。
 先生は、高校2年生の美術の授業の約半分をアールブリュットの作品の鑑賞の授業に位置づけています。課題解決型の授業を実践している先生のユニークなところは、アールブリュットを取り上げていることだけではありません。先生の授業はNO-MAというアールブリュットのコレクションを持っている美術館が地元にあるというメリットを生かし、先生がいわばコーディネーターとなって、アールブリュットの専門家や作家を招き、その方たちが講師として語り、生徒と対話する授業を組み立てていることです。

 生徒たちはNO-MAの学芸員からアールブリュットについて学ぶだけでなく、作品を直に見ることを体験します。また、NO-MAの美術展に際して来県した作家、宮間栄次郎さんにインタビューし、作家の生の声を聞くという体験もありました。これらの体験的な学習、探求型の学習のまとめとして、生徒たちが自ら校内の図書室でアールブリュットの展示会を企画・運営しました。

 アールブリュットの作品を授業に取り上げることについて、先生は評価が定まっていないからこそ、生徒自身がどう考えるかという授業ができる。アールブリュットを取り上げることは、作品を起点として、作者、支援者、福祉制度などいろいろな側面からアプローチすることができる、いわばいろんな引き出しがあるのだとおっしゃっていました。

 先生が、生徒のレポートを紹介する中で注目していたのが、アールブリュットを知ることが生徒の気持ちの変化に繋がったことです。ある生徒は、作家の宮間さんの考え方や生き方に触れ、「生き生きとして楽しそうだとぼんやりと思いました。」と書いていました。生徒が、アールブリュットの作品や作家を道案内にして、自分の生き方、考え方を振り返る過程を辿ることができたことに手応えを感じたそうです。

 作品を送り出す側、受け止める側が一つの輪になって結ばれ、そこから生徒の心に未来につながる種が抱かれた、そんな印象をもった実践報告でした。


2015年1月31日土曜日

第8回九州沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会要旨


1 主催者あいさつ

会長・小西清則

 憲法や教育基本法には「全ての人は教育を受ける権利を有する」と明記され、教育上差別されないとうたわれているが、義務教育での教科書が無償になったのは、私が中学校を卒業した後。生活の格差がますます開いていく現実の中で就学環境の充実がある程度されてきたが、今年4月に高校授業料の実質無償化が廃止され、新しい高校修学支援制度が始まった。

 教育を受ける当然の権利を行使するために、申請を行わなければならないと言う奇妙なしくみに。厳しい環境にある人ほど申請がスムーズにいかない。課税証明書を揃えることをあきらめたり、必要をしている人に支援策の情報がいかない。中等教育の無償化の動きに逆行している。私たちにはこの制度をひっくり返す力はないが、制度の不備を補完し改善や改革を目指す取り組みを進めなければならない。

 もっとも大切な事は教育の権利が保障されていない現実をどう見ていくかということ、当事者である子ども自身が現実をどう見ていくか、自分が抱えている問題の社会的な意味を考えるということ。
 2002年に高校奨学金のあり方が、育英主義から成績条項を設けない制度に変わった。これを必要とする人はたくさんいるが、奨学金の申請を躊躇させ、お上の支援に頼る事は良くないという意識がある。これを変えていくために、子ども自身や保護者に対する啓発や学習の取り組みが展開された。

 子どもたち自身や私たちの学びを広げていく取り組みをしなければならない。厳しい状況の子どもも人として尊重される社会を作っていくには、道は遠いと言う感がある。子どもたちや、その子どもたちに寄り添っている方々の学びの中身について、交流できたらと思っている。


2 基調提起

金城 馨

 沖縄は出生率が死亡率を上回る数少ない地域。社会全体で子どもたちを育んでいかなければならない。貧困率や非正規雇用率の高さなど家計の厳しい経済状況や、地域コミュニティーの弱体化などが明らかになっている。暮らしの基盤を危うくさせ育ちや学びに影響を与えている。

 子どもや親たちが抱え込まされている課題は、重層化し複合化している。子ども支援と家庭支援は車の両輪。現状を把握し課題解決の手だてを考える必要がある。限られたマンパワーや一つの機関だけで対処することには限界がある。既存の制度では十分に対応できない。様々な立場の人たちが連携し相互補完的にアプローチすることが必要。

 2008年の第2回交流学習会で、高校授業料減免制度の課題と改善案を実行委員会で話し合って県教育庁に要望した。入学式の前に制度の説明会を行うなど、周知をすることができた。
 当事者の意思を尊重しながら支援するには、共に考える人や共に取り組む機関につながる情報が必要。支援するもの同士がそれぞれの専門分野以外の情報を得ることで、支援のためのネットワークを作ることを目指したい。

 2009年に子ども支援ガイドブックの作成に取り組み、2010年に最初のガイドブックを完成させた。大牟田市のアイデアも共有しながら充実に努めている。2012年に沖縄県版、2013年に那覇市版を発行している。このガイドブックの利用を切り口に、互いの実践を交流しながら子ども支援のつながりとさらなる広がりを期待したい。



3 実践報告

「光をもとめて」
福岡県・中学校教諭

 私が勤務している中学校は1学年120人程度の規模。校区に2つの同和地区がある。一人ひとりの自己実現を支えるための同和教育や人権教育に取り組んでいる。現在の中学校に赴任して8年。担当した生徒が大学を卒業して教育実習で戻ってきたり、地域の人たちから生徒の近況を聞いたりしている。3年間だけでは感じることができなかった、子どもの育ちに関わっている責任の重さを改めて感じている。
 卒業生の中に、高校を中退したり、転々と職を変えている生徒がいる。自分が取り組んできた人権教育や同和教育は子どもにとってどうだったのか、進路保証の取り組みと人権学習がどう関連しているのかを意識しながら、自分の実践を振り返り取り組んでいる。

 去年の11月に福岡県同教のスタッフから、文部科学省が出した就学支援金制度についてのチラシを子どもたちや保護者が見て理解できると思うかと聞かれ、ガツンとやられたような気持ちに。自分もわからなかった。三者面談で子供たちにしっかり伝えていこうとプリント配布を決めた。支援金について十分に説明する時間がない。とにかく申請を出さなければいけないということ、申請書は進学先の高校で配布されるという事や、困ったことがあったら中学校に連絡して欲しいという事を各担任から伝えていった。3年生の担任だけでなく、全職員で校内研修会を開いて、問題点や暮らしの現状を見つめていくことを確認した。修学旅行の時期に合わせて、2年生の保護者にも説明した。

 同和地区から通っているある生徒は、母親の離婚を機に母親の故郷である校区に戻ってきた。兄弟が多く家事を協力しながらやっている女の子。中1の頃から保育士になりたいという希望を持っていた。1年生の時に弟がいる保育園を職場体験で訪問した。私立の高校で専門的に学びたいと考えていたが、兄弟が多いので公立高校に進学することを母親は希望していた。進学費用について母親と話し合いを重ね、両方の高校を受験し合格して、現在は公立高校に通っている。
申請に必要な書類を役所に行って取ってきてもらわなければならないが、母親も1馬力で頑張っているので仕事を簡単に休めない。卒業式の日は仕事を休んで準備をしたいということで、その日に役所に行って申請の手続きをすることができた。

 祖父母と兄弟5人で暮らしている生徒は、怠学気味で学力的に厳しいところもあった。中3の担任の先生から私立を専願しなければ厳しいと言われていた。そう言われていても勉強のほうに気持ちが向かなかった。校区の夏祭りでカラオケ大会に出て優勝し、地域のおじちゃんおばちゃんから上手いねと褒められたことで、音楽関係の勉強ができる私立高校に進学した。祖父母と話し合って、就学支援金は1.5倍の金額で決定された。制度の存在を知った祖父母にも安心してもらうことができた。

 自分が送り出した卒業生が退学や転学しているケースもある。転学していることを気づくことができないことも。担任に本人や高校から連絡がなく、たまたま会った妹から通信制の高校に転学したことを聞いて、旧担任と連絡を取って家庭訪問をして本人と話し合った。支援金のことを高校の先生方と協力して進めていくことが重要だと思った。中学高校の連携が必要。高校1年生で中退したケースでは、消化済みの9ヶ月分の残り、27ヶ月分の奨学金を転学先の高校で利用できることを保護者と話し合い、安心してもらうことができた。

 支援が必要なところにきちっとした情報を伝えるために、市同研でも、ミーティングを開いて話し合ってきた。保護者が行きそうな市役所の窓口に情報提供したり、福岡県教職員組合の支部でも情報共有したり、学習指導員との各種集会にも取り組んでいった。
 校区に児童養護施設がある中学校では、児童養護施設の職員さんにも説明をした。進学先の高校で申請書の「生計を維持している者」の欄を見たときに、生徒はどう思うか、いろんなことを考えるだろうなと言うことを話し合った。

 市全体では文科省のチラシを配って終わりという中学校もあった。2月に行った緊急学習会ではきちんとした取り組みをしなければならない、卒業式のときには時間をとって保護者に説明しようと話し合った。同研だよりを活用して、これを使いながら学習できるようにと資料作成をした。
 制度を見た時に感じた「気になるなあ」という感覚はとても大切だと思っている。いろんな課題を抱えた子どもたちがいるので、担任の先生を中心にしながら追跡してもらった。申請漏れは出なかったが、その後の6月の申請についても、担任と連絡を取って申請漏れがないように努めた。また高校とやりとりをしながら申請漏れがないように取り組んだ。

 同和教育運動とこの支援金制度に関わって、様々な団体や機関とやりとりをして、1人の子どもをイメージしながら制度を活用できるように動いていったのは、同和教育運動に関わったと言う実感を持てた。生徒自身が自分の生活を見つめながら、どう生きていくかを考えるときっかけになったのでは。先述の生徒は、差別をなくす保育士になりたいと勉強に取り組んでいる。責任の重さを感じながら実践を続けていきたいと考えている。


「就学支援金と就学給付金の手続きに係る学校現場の状況」
沖縄県・学校事務職

 今年は給付金支援金の担当にあたるのかなと思っていたら、今年度事務長から担当を命じられた。文部省の資料を見て来年度は大変なことになると事務職員間で覚悟していた。現在は申請を終えて給付金の決定を待っているところ。現在高校2年・3年生の生徒は授業料無償化制度により、所得要件や提出書類なしで全員無償化されているが、2014年4月からの入学生、1年に対しては所得要件・提出申請が必要。

 この制度のスタートが決まり、今年の3月に新入生オリエンテーションで保護者に申請書類を配布して説明会を持つまでに正味3ヶ月しかなく、文科省の資料を何回読んでも意味がわからなかった。わかりにくい制度を保護者にわかりやすく説明するための資料作りを急がなければと思った。取り組みが進んでいる福岡の九同教から資料提供を受けた。保護者の疑問に答えるために制度の理解に勤めて新入生オリエンテーションに臨んだ。1年生400人の中で提出期限までに提出がなかったのが80名。書類不備は200まで数えたが後は数えるのをやめた。把握できない。保護者も学校も制度に振り回された。県も苦労したと思う。都道府県知事会も4月のスタートには準備期間が足りず無理だと制度の開始を1年間延期するよう国に要請をしたが、拒否され強行施行された。
 オリエンテーションで説明をしても「支援金って何なの、意味がわからない、日本育英会との奨学金と間違えやすい」。うちは該当しないのでは、よくわからないから申請しない、という未申請につながった。書類不備などの混乱にもつながった。

 提出書類の「保護者の所得に関する項目」では、親権者が1人である場合その理由を書かなければならない。実際には予想以上に父子家庭が多く、理由が書かれておらず書類不備になるケースが多かった。「妻と死別したということまで書かなければならないのか」と黙ってしまう父親もいた。公平な審査をするためとは言っても、保護者に精神的な負担を強いており、理由の記載によって戸籍謄本等の提出書類が省略できるとは言っても、保護者からの抵抗の声が大きかった。

 事務職員としては未提出者対応、中でもこの理由枠の記入について一人一人保護者に電話をして伝えなければならない必要がある。なかなか連絡がとれなかったり、生徒を通して書類の修正をしてもらったり、生徒に届けてもらうことがスムーズにいかない。自分たちは対象外だと思って授業料を収め申請を行わなかったが、周りから「授業料を収めるのは高額所得世帯だけだよね」と聞かされ、授業料の請求が来るのはおかしいと思って書類を見直すと対象世帯だということがわかったケースもあり、学校事務では授業料の返納処理・支援金申請の作業の必要が生じた。再婚家庭では現在の配偶者との養子縁組がなされているかどうかの確認までしなければならない。

 里親世帯の場合は未成年後見者の選定がされているかどうかまで確認する必要がある。親子関係やプライベートに立ち入らなければならない。対応したケースでは、戸籍上の重要な問題を相談されたこともあった。

 保護者の収入状況によって世帯が3つに区分される。高額所得世帯では授業料を納付してもらわなければならないが、授業料の袋を持ち歩いていると生徒の間でも話題になる。窓口に授業料を収めた生徒の周りで、友人たちが「あなたはどうして授業料収めるの?私たちは収めてないよ」と話しはじめてちょっとした騒ぎになったことも。周りの気を引かないように淡々と対応した。その子も気まずそうにしていたが、「よく知らない。お母さんが持っていけと言ったから」とうまく切り抜けてくれた。生徒との間でも保護者の間でも「あの家は収めている」と噂になっている。世帯の状況があらわになってしまわないように配慮してほしい。

 親権者の正確な経済状況を判明させることができないケースもある。別居しているが離婚しておらず籍が残っている場合、戸籍謄本や住民票に別居の事実は載らない。別れた夫から養育費ももらっていないし、夫が確定申告をしていないため課税証明書の提出にも応じてもらえない。申請できず支援金や給付金の対象から漏れている例もある。一方で再婚した相手が高額所得者であっても、養子縁組がなされていないために唯一の親権者である妻の収入のみを申告せざるを得ず、支援金給付金が支給される対象になるケースもあった。公平な制度であるかどうかは事務職員の間でも疑問を持っている。

 学校事務室に業務量の増加という負担がかかっている。来年度以降も増加すると予想している。定時制や通信制の高校では在学期間の認定が困難なケースも。定時制・通信制高校では支給期間48ヶ月・在学中4回の給付金支給が制度上決まっているが、転学・退学を繰り返している場合、今までどの学校に何ヶ月いるか確認して、48ヶ月から他校での在学期間を引いて算定する作業が困難な場合が多い。

 授業料の復活により督促業務が必要。沖縄県では口座引き落としではなく現金を毎回窓口で収めてもらう必要がある。小学校の給食費も今時口座振替なのにと、保護者から苦情が来ることも。事務補助員の人件費など県内のすべての高校に配布しされた事務的経費は約2,500万円と試算している。書類の郵送費も必要。予算の配布はありがたいが、申請業務が終わった今の時期では予算消化に追われている。浮いた分を給付金に回してほしい。授業料を収める生徒は12%。費用対効果の面でも問題を感じている。申請書を簡略化できないか。

 4月と6月の2回の申請を1回にし、6月に出る最新の課税証明書により正確な世帯の収入を反映させたい。定時制通信制高校では在籍要件ではなく、単純に今いる学校で、所得要件のみで審査をするよう要望している。授業料の口座引き落としが実現しても、県の規則で納入のお知らせを配布しなければならない。配布業務の必要と、封筒をもらう生徒ともらわない生徒の差という問題が残る。10月1日に申請手続きが終わった給付金については実際の振り込みが1月ごろに行われるだろうと予測しているが、せめて1学期中、できればまとまった費用が必要な4月に支給して欲しい。来年度以降は全学年が制度の対象になる。業務の増大が見込まれ人員配置を要望している。

 現行制度を続ければ生徒・保護者・学校現場の混乱は今後も続くし、生徒間の軋轢も生じるだろうと懸念される。事務職員から最も多く聞かれた声は「所得制限の撤廃・全員無償化に戻すことでしか解消できない」。本当に支援を必要としている保護者や生徒に寄り添った制度では無い。


「働くこととお金」
沖縄県・県立学校教諭

 工業高校で進路指導部長をしている。子どもを育てて卒業・就職させるまでにどれくらいお金がかかるかという表を編集している時、高校生も保護者も必要なお金のことを自覚せずに生活しているのではないかと思った。卒業生の3分の2が就職組。就職後に必要なお金のことを学ばせて送りださないと、生活者になったときに困るだろうなと思った。

 4~5年前からキャリア教育と言うことが叫ばれるようになった。本来の意味は轍。自分が歩いてきた轍や足跡を振り返り、これから先どういう足跡を残して歩いていくかということを子どもたちに考えてもらうということがキャリア教育だ。最初はどんな職業につきたいか・どんな学校に行ってどんな資格を取るか、なりたい職業に必要なものを教えていたが、定年退職してから死ぬまでの間にどんな足跡を残していくか、ということもキャリア教育の範囲に入ると考えた。どんな人生を送りたいのか、どんな人間になりたいのかということを目標にしなければならないと私は考えている。

 全国でも社会保険加入率は高いとは言えないか、沖縄はその中でワースト1位。働く事は自分の生活だけではなく社会を支えるという事。多いクラスでは半数程度が1人親世帯。クラスに1人2人ぐらい保護者が祖父母と言う生徒もある。とても多いというわけではないが、家族や周囲の人たちに働かなくても何とかなる、無業者がいるという生徒もいる。

 手取りで10万円程度のアルバイトをしている生徒も多いので、求人票を見ても手取り額はアルバイトとたいして変わらないから就職しない、アルバイトのままでいいと平気で言う生徒も。アルバイトではいろんな保険に入れないということを知らない。キャリア教育の最終到達点である、自分の将来像をイメージすることができていない。保護者を敬う気持ちが薄い子も多い。勉強できないのは親のせい、しわの寄った服を着ているのは親がアイロンをかけてくれないから、という生徒に対して、高校生になったのだからアイロンぐらい自分でかけてこいと返したくなる。うまくいかないことや不満を親や周りのせいにしたがる。

 まず彼らが大好きなお金の話から始めようと考え、1年生7クラスを対象に、小さい頃からどのくらいお金が掛かってるかと言う表をA2サイズで印刷し、授業の前の週から教室に貼り出した。貼り出すときにはあえて説明をせず「見ておいてね」とだけいうようにした。君たちは親が嫌いなのかもしれないけど、君達を育てるために親はこれだけ働いてるんだよ、次はあなたたちじゃない?という話を振っておいて、LHR(学活)の時間、担任の先生に授業実践をしてもらった。担任の先生には資料を配って事前学習をしてもらい、「税金を納めることで社会を支えている。働けなくなったときにその人たちを支えるのは私達だよね」ということを強く念押しして欲しいとお願いした。

 授業を終えて、大人になるって大変だけど一生懸命やればそれなりに生活していけそうだなぁと言うイメージを持ってもらえた。保護者に授業の感想を書いて送ってみようかと生徒に書いてもらったものを、進路指導部からのお知らせ文書と一緒に保護者に配布した。一人暮らしに必要なお金を計算してもらうワークシートも生徒にやってもらった。感謝のハガキをもらった保護者からは、泣きそうになったという電話ももらった。

 働けるのに働かないと言う事は、社会参加を拒否している状態。社会をみんなで支えようという事を伝えたい。私は自立という言葉を、ひとりぼっちで立ちなさい、という意味では使わない。仲間がいる中で立って、困ったときには隣の人に寄りかかる・助けてほしいと声に出す・どこに繋がれば助けてもらえるかと言う情報を持っていること、それが自立だ。その中で余力があったら、寄りかかってくる人を支えようということを心の中に留めて欲しい。

 沖縄のゆるい言葉で”なんくるないさー(なんとかなるさ)”と言う言葉がある。努力もしないでなんくるないさーと言う生徒が多いので、お前はどれくらい頑張っているからなんくるないさーと言うのかとイラつくことがあって好きではなかった。本来上の句があり「誠そうけー、なんくるないさー」真実を尽くし心がけていれば、その後はうまく転がっていくという意味。ぼけっとしておいてなんくるないさーという意味では無い。他人にも自分にも親切丁寧に生きなさいと、普段から高校生に伝えている。


「地域のネットワークにかかわって」
NPO法人サポート支援センターゆめさき

 NPO法人になったのは5年前、それまでは個人でやっていた。教職を目指して1970年に琉球大学に入学した。母子家庭で貧困の中、母が洋裁をして食いつないでいた。1960年代から70年代は沖縄全体で仕事が無く、基地の中で裁縫や庭師、ベビーシッターなどの仕事をやっている人が多く、私の母もその1人だった。

 私の叔父は沖縄師範学校で屋良朝苗と同級生。首里で戦死し壕の前に埋められた。親戚が遺骨を探したがなかなか見つからない。壕の近くに建てられた琉球大学在学中、そのことが気になっていた。学生運動で授業が中断される中、翌年お金を貯めて本土を訪問した。復帰前の本土と沖縄を見て、その狭間で苦しんだ時期がある。日の丸を振って祖国復帰運動に取り組んだが、復帰後日の丸を振れなくなった。沖縄は復帰の時に底辺の学校を切り捨てた。

 いろいろな問題に気付いていたが、取り組む余裕がなかった。敗戦から復帰までの27年間は不登校と一緒。小学校や中学校の教育課程の中でつまずくと先に進めないように、私たちは穴をふさがずにやってきた。そこをどうするかは私たち世代の責任。私たちの同級生はみんな出てこい、出てきて一緒に頑張ろうよ、穴埋めをしようといいたい。同級生の定年退職した先生方と一緒に地域でやっていきたい。

 学校現場で疲れていた時に、不登校の子供たちと出会って癒された。子供たちに居場所を与えられた。厚生労働省の委託事業「若者自立塾」で、子どもたちとの出会いが私の考え方を変えた。国の政策の中では、ニートの若者は「怠け者・やる気がない・目標がなくて楽をしようとしている」と言うイメージであり、訓練をして3ヶ月では就労させてくれと言う注文だった。当時出された本の中では「弱い心の若者・社会的な過保護があった・国や親の財産、年金などを食い荒らしていく存在・社会の崩壊につながる爆弾」だと指摘された。活動拠点とするアパートをなかなか借りることができず、八重岳の山の上で合宿をした。

 障害者手帳を取得した・持っていた訓練生が36%、不登校の経験者が53%、母子家庭は44%、心療内科通院者は33%。この沖縄県の数字は全国のものとは違うだろうと思っていたが、母子世帯の率を除いてほぼ一緒だった。この時点で沖縄は本土と並び、本土化した。不登校の経験がそのままニートや引きこもりにつながっている。その芽は10代の早い時期、小学校4年5年生の時期だということがアンケートからわかった。早い時期に対応を始めなければ穴の中に落ちて潜ってしまう。大多数の若者達は怠けたくて怠けているのではない。

 いろいろな困難を持って通っている。不登校からニート・引きこもりにしないという気持ちで取り組んでいる。皆さんとネットワークでつながりたい。適応指導教室にはいれない、先生が会えないような子どもたちを扱っており、時間がかかる。高校入試などが子どもたちを引っ張り出す良いチャンス。
 平成24年から25年に沖縄市で中学校の不登校に関する調査をやった。不登校が学力要因によって起こっていないか・経済的な要因はないか・発達障害の要因はないかを調べた。不登校傾向のある子どもの平均成績評価は5段階評価の2、それ以外では3.8。学校に行かなくなったから学力が低いのか、もともと学力が低くて行かなくなったのかまでは追いきれていないが、学力と不登校は深くかかわっており悪循環が起こっていると考えている。要保護世帯のうち不登校傾向にあるのは20.3%。要保護世帯以外では3.1% 。リスクは7倍。発達障害でない生徒の不登校率は3.1%、発達障害の生徒の不登校率は32.6% 。リスクは10倍。私たち一NPOと現場をどうつないでいくか悩んで立ち上げたのが子ども若者支援センターだ。

 不登校には発達障害や要保護世帯であることなど複合的な問題が関わっている。支援センターを立ち上げて毎日相談を受けている。ひとつの機関だけでは解決できない。ネットワークを作って学校や民間を巻き込んで、横の串を入れてみんなでやるということが、センターを立ち上げたきっかけ。子どもたちは早い時期に不登校から抜け出して教育現場や社会に飛び出してほしい。

 沖縄は平均所得が低い県だと言われているが、1,000万円以上の高額所得者の数は全国10位以内に入っているという。誰がこのお金を手にしているのか。取り巻く状況が厳しい中、みんなでやるしかない。定年退職した先生方も、隣のおばさんおじさんも一緒に地域でやろうと考えている。ゲートボールをやっているおばあちゃん達もいて、沖縄にはまだ余力がある。学校やNPOだけではなくいろんな人がやる時代だと思う。

 文部科学省が開催した全国フリースクール等フォーラムに参加した際、大臣が最初から最後まで参加していたことに驚いた。会議で全国のフリースクール関係者と会ったが、自分のやっている取り組みはフリースクールではないと考えている。お金やマンパワー・知識が十分では無いフリースクールではどんなに頑張っても学校のようにはできない。学校現場に戻すのが一番。沖縄にはフリースクールやフリースペースはないと会議で話してきた。学校にしっかり予算を入れてもらって、私たちのNPOにも予算をもらって学校を支える体勢が要る。地域の高齢者とどうコラボしていくかを考える時代。地域のおじいちゃんおばあちゃんとネットワークを作っていきたい。

2014年12月3日水曜日

参加者のみなさんのアンケートの一部を紹介します。

福岡県新宮町教育委員会職員

 高校の奨学金制度にまつわる問題、不登校にまつわる問題など、簡単には解決できないことが山積みだと感じました。今の自分の立場からできることは何かを考え実践したいと思いました。


 公益法人認知症の人と家族の会 沖縄支部会員


 昨年、県内の若年認知症の実態調査が行われました。その結果、若年認知症を発症した父親または母親をもつ子どもたちがヤングケアラーとして介護を担っている現実が見えてきました。働き盛りの親(世代)の発症は、住宅ローンの返済、子どもの教育、介護、医療等様々な問題がありますので、子ども支援ガイドブックは活用できると思います。今後はワンストップで生活すべてを相談できる窓口があればよいと考えています。


 佐賀県教員


 就学支援金制度や奨学給付金制度について実践例を含め学習し、確認できたことやはじめて知ったことがあり、大変勉強になりました。私たちがまず制度を理解し、どの学校でも発信できるような環境をつくらなければならないと思いました。
ワークショップは「おきなわ子ども支援ガイドブックの活かし方」でした。分かりやすくまとめてあると思いました。目次があるとすぐに見つけられると思いました。ガイドブックに行く前に(事例の)Aさんが本音を言える仲間、友だちの変化に気づく力等の環境、雰囲気をつくることが私たち教師、大人のまずすることだと思いました。


 宮崎県教員


 午前中の現場からの報告が、皆具体的で、大きな刺激を受け、今後の参考になります。午後のワークショップもいろいろと考えさせられガイドブックの活用が身近なものに思えました。


 沖縄国際大学 学生


 年代や所属が様々な方とワークショップで意見や考えを聞くことができ、貴重な体験をすることができ嬉しく思いました。
 制度の不公平さと、それを補う関係者の暖かさを知ることができました。難しい問題を思考停止せず考え続けていきたいです。


  「就学支援金」等制度について初めて知ることができました。様々県の取り組みや様子の意見交換でネットワーク作りにもつながったのではないかと思う。「子ども支援ガイドブック」のわかりやすさや、ワークショップを通して様々な人たちと考えを出し合い、話し合うことができ、自分と違う考えや意見が合って面白かった。今回参加して支援の方法や専門機関、地域との連携の大切さを改めて実感しました。


  実践報告の時間が少ないかなーと感じました。就学支援金と奨学給付金の仕組みも難しかったし、その制度があったことも知りませんでした。事務の人の話を聞く機会はめったに無いので新鮮でした。上江田さんが話していた定時制の子はすごいなーと感じました。


 うるま市パーソナルサポートセンター職員


 もっと知らなければいけない内容、議論でした。次回各市町村の相談員や支援機関との連携や協働をテーマにしたり事前ヒアリングを行ったりしてはいかがでしょうか。


 もとぶふれあい交流館職員


 今回はじめて参加させていただきありがとうございました。日頃あまり接点のない方たちばかりで、あ・・・場違いなところへきてしまったかと思いましたが、新しい気づきが沢山沢山できて、参加できて良かったです。本当にありがとうございました。これからも勉強していきたいと思いました。


 参加者


 九州からも沢山来られていてみんなが熱心に取り組まれており大変すばらしかった。また沖縄子ども支援ガイドブックはまたレベルアップしており重厚な内容で充実しており作った方の意気込みが感じられ感激しました。作った方の苦労が実践で使用され多くの子どもたちが支援につながると思います。


 参加者


 実際に活動なさっている方々のお話を聞く機会をいただいて大変感謝しています。もっと、もっとマスコミにこの沖縄の現状をアピールしてもらうべきと思います。給付金の制度設計に欠陥があることも分かりました。


 参加者


 事務職員の話ですごく分かりにくい制度についてかなり理解できた。ありがとうございます。工業の先生の授業を子どもたちに受けさせたい。(その前に私が受けたい)ありがとうございました。
参加者のみなさん、アンケートにご協力いただき、ありがとうございます。

2014年11月30日日曜日

第8回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会 基調提起

基調提起

1 はじめに

 私たちの地域が将来に亘って持続可能な社会となるためには、次世代の担い手となる子どもたちの育成が最優先の課題です。沖縄は2013年の出生率が1.94と全国平均の1.43を上回り、出生数が死亡数を上回る地域として、日本の中でも稀有の存在です。しかし、日々誕生してくる子どもたちが、健やかに成長し、くらしやすい社会を創造する主体者となるためには、教育の機会が保障され、どのような境遇であっても自己実現を目指すことができるよう、社会全体で子どもたちを育んでいかなければなりません。

しかし、近年、日本においては、きびしい経済状況におかれている人たちの層が、さらに大きくなっています。子どもや家庭(親たち)が抱え込まされている課題は、重層化・複合化しており、個の取り組みでは解決が困難な状況です。課題解決のためには、さまざまな立場の人たちがネットワークでつながり、連携・協働してチームワークで総合的にアプローチしていくことが必要です
 

2 沖縄県の教育、社会をめぐる状況

(1)「全国学力・学習状況調査」と「少年の補導及び保護の概況」から

 小学6年生と中学3年生を対象に行われた2014年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、これまで全国最下位が続いていた沖縄は、小学校(公立のみ)の成績が大幅に向上し、算数Aは全国6位となりました。沖縄県の試算では、全4科目(国語A・B、算数A・B)の総合では24位。中学校は前年に続いて各科目とも最下位でしたが、国語B以外の3科目で全国平均との差を縮めています。

 文部科学省のHPでは、沖縄県の学校での取り組みとして、教員の研修活動の強化、自分で調べたことや考えたことを分かりやすく文章に書かせる指導を行うなど指導方法の改善、国語・算数における「補充的な学習」「発展的な学習」の指導の強化を挙げています。

 教師の指導力の向上と授業改善に向けた取り組みの結果の表れととらえると共に、このことが子どもたちの生きる力にどう現れていくのかしっかりと実態をみていき、子どもたちの育ちと学びを検証して行く必要があります。

 一方、警察庁による「平成25年中における少年の補導及び保護の概況」によると2013年における刑法犯少年に占める中学生の割合で沖縄県は59.0%で3年連続増加しており、全国1位の割合です。2010年の沖縄県警の統計によると刑法犯少年のうち非行歴のある少年の割合が41.6%、複数の犯行を行った少年の割合が56.3%と共に全国1位で、少年非行の低年齢化とともに高い再犯率と共犯率が問題となっています。これらの結果をしっかりとらえ、生きる力としての学力という視点を持って取り組んでいかなければなりません。

 沖縄県の少年院を仮退院した46人の少年たちを対象にした、2013年の実態調査の報告によると保護者からの「ネグレクト」「放任」の扱いを受けた少年が65.2%(30人)、「暴力・暴言」を受けた少年が34.8%(16人)とほぼ全員が保護者からなんらかの虐待を受けていたことが分かりました。また60.9%(28人)の少年たちが生活保護レベルの貧困家庭で暮らしていたことが分かりました。

家庭の経済状況と子どもの学力や進学の状況との間に相関関係があることが全国学力・学習状況調査結果の分析によって明らかになっています。沖縄県の調査では、生活保護世帯の中学生の高校進学率は84%で、県平均の95.8%と10ポイント以上の開きがあり、世帯の状況が子どもの進学に重く影を落としている一端が明らかになっています。子どもや家庭(親たち)が抱え込まされている重層的・複合的な課題を明らかにし、課題解決に向けて協働・連携による多面的な取り組みが必要です。

(2)子ども、家庭・親たち、社会が抱える課題

 私たちは、子どもや親たちの現状や課題をさまざま立場の方たちと共有するために、子どもや親たちの現状を示す調査データを整理し、第7回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会において報告しました。あえて厳しい現状を示す数値に絞った具体的なデータにより、沖縄の子どもたちの課題の背景にある、親や大人たち、そして社会が抱える課題が明らかになってきました。九州各県においても具体的なデータにより、子どもたちの課題の背景にある親やおとなたち、そして社会が抱える課題を明らかにしているところです。

①子どもたちが抱える課題

 子どもたちの1日の生活からは、基本的生活習慣、親と過ごす時間、親子のコミュニケーションの現状が浮かび上がってきます。さらにライフステージからは、不登校や中退、ニート数の多さから、沖縄の状況の深刻さが分かります。

【1日の生活からみた子どもたちの課題】

・1歳から6歳までの子どもの朝食の欠食率 沖縄16.4%、全国7.2%(平成23年度沖縄県民健康・栄養調査)

・家の人(兄弟を除く)と普段夕食を一緒に食べている小学生:沖縄66.4%、全国70.9%、中学生:沖縄50.2% 全国59.6%(平成25年度全国学力・学習状況調査)                 

・家の人(兄弟を除く)と学校での出来事について話している小学生:沖縄45.5%、全国53.2%、中学生:沖縄35.1%、全国41.9%(平成26年度全国学力・学習状況調査)

【ライフステージからみた子どもたちの課題】

・中学生の不登校人口千人あたり 沖縄30.4人、全国26.9人

・高校生の不登校生徒数人口千人あたり 沖縄30.3人、全国16.7人

・高校生の中途退学率 沖縄2.1%、全国1.7%

(以上、平成25年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査)

・15歳から34歳に占めるニートの割合:沖縄2.6%、全国2.1%、(2010年総務省の労働力調査)

②親たち・社会が抱える課題

親たちの雇用や経済状況に関するデータからは、家庭の経済的困窮の状況と、その要因の一つになっている非正規雇用の占める割合の高さという沖縄の厳しい現実が見えてきます。

【家族・親たちが抱える課題】

・県別貧困率(2007年) 沖縄29.3%、全国14.4%

・県別ワーキングプア率(2007年) 沖縄20.5%、全国6.7%「近年における都道府県別貧困率の推移について-ワーキングプアを中心に」戸室健作〈山形大学〉より

・家の人(兄弟を除く)は授業参観や運動会などの学校行事によく来ると答えた小学:沖縄72.4%、全国81.2%、中学生:沖縄36.4%、全国49.9%(平成26年度全国学力・学習状況調査)

【沖縄県の社会が抱える課題】

・非正規雇用率 沖縄44.5%、全国38.2%(2012年就業構造基本調査)

・核家族率 沖縄60.5%、全国56.4%(平成22年国勢調査)

・自治会への加入率 20.9%(平成25年那覇市) 

 また、表1の「平成25年度沖縄県労働条件等実態調査」からは、育児や介護と仕事の両立を困難している雇用環境が明らかになっています。


平成25年度沖縄県労働条件等実態調査

①年休制度がない(労基法39条、89条違反の恐れ)約2割(158事業所)

②育児休業制度を就業規則等で定めず(労基法89条違反の恐れ)約3割(239事業所)

③介護休業制度を就業規則等で定めず(労基法89条違反の恐れ)約4割(340事業所)

④パートに育児介護休業制度を適用せず(育児介護休業法6条、12条違反の恐れ)約5割(252事業所)

⑤セクハラ対策に取り組んでいない(男女雇用機会均等法11条違反の恐れ)約6割(457事業所)

※県内788事業所(④のみ511事業所)を対象に調査

(3)高等学校等就学支援金に関する課題

 今年度から始まった高等学校等就学支援金制度は、学校現場に大きな問題を引き起こしています。この制度が、沖縄の親や子どもたちが抱えていた課題を表面化させ、世帯の状況によっては、さらに重い負担として親や子どもたちを苦しめています。

 かつての高等学校無償化制度は、高等学校に通うすべての生徒が対象であるために特別な申請手続きがは不要でした。それに対し、新しい制度は親の所得水準によって、授業料に相当する就学支援金の受給の可否が分かれるために、保護者の市町村民税所得割額を証明する書類と申請書を提出しなければなりません。

 実質的に、ひとり親世帯となっているのにも関わらず、離婚の手続きをしていないというケースがありました。この場合、父親と母親両方の所得の証明が必要ですが、片方がその提出を拒否して申請が滞っていて、世帯が経済的に困窮しているにも関わらず、申請書類の不備で支援金が受けられない世帯になってしまう可能性があります。また、学校では授業料を納める生徒と納めない生徒が存在することにより、親の所得格差に生徒が直面するという新たな状況が生まれています。学校では事務職員が自治体の納税担当窓口や他校の事務職員と情報交換しながら、様々なケースに丁寧に対応して課題解決に努めています。今年度、申請に課題があるケースの件数には学校間で偏りがあることが明らかになりました。7月からは高校生等奨学給付金制度もはじまっています。来年度は申請の対象が1,2年生ということで2倍になります。支援金が受けられないケースが増加するのを防ぐために、準備を進めることや教員(担任等)がこれらの状況をふまえ、子どものくらしをつかむための動きが急務の課題です。

3 課題解決のために

(1)子ども支援と家庭支援をセットにして考える

 福岡県同教の学力保障にかかわる調査研究で作成された「今日的な差別によって育ちと学び、暮らしが阻害されている現実」(図1)には、表面化している子どもたちの課題には、家庭や親、そしてその暮らしの基盤となる社会の課題が重層的・複合的に影響していることが示されています。

 子ども支援と家庭支援はセットである、という視点で現状を把握し、課題解決の手立てを考える必要があります。しかし、課題が複雑であるために、担任や学校といったマンパワーやひとつの機関で対処するには限界がある場合や、既存の制度では対応できない現実に直面することがあります。そのため関わる人が孤立することなく、さまざまな立場の人たちと連携して相互補完的にアプローチすることが求められます。


図1




(2)子ども支援ガイドブックの作成と活用

 2007年8月に、第1回目の九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会が沖縄大学で開催されました。私たちは翌2008年に行われた第2回の交流学習会で問題提起された高校授業料減免制度について学習し、沖縄県の課題とその改善案をまとめ、沖縄県高教組を通じて県教育庁に要望を行いました。その結果、申請手続きに関する説明会を前倒しすること等の改善策が県の同意を得て、各学校に周知されました。2009年からは、子ども支援ガイドブックの作成に取り組み、2010年に最初のガイドブックを完成させ、第4回の交流学習会で参加者に配布しました。その後、改良を行い2012年に沖縄県版を発行し、2013年には、那覇市教育委員会やこどもみらい課、子育て応援課、こども政策課の協力を得て、那覇市版を発行しました。その年の12月7日に行われた第7回の交流学習会では、沖縄の子どもたちや親たちが抱え込まされている課題を数々のデータをもとに示した「沖縄の子ども、家庭・親たち、社会が抱える課題」図を作成し、基調提起として報告しました。

 子どもや家庭の実態を踏まえ、当事者の意思を尊重しながら、さまざまな機関や人がつながりながら協働して支援を続けるためには、必要な支援にたどり着くことができる情報源が必要です。また支援する側も自己の専門分野以外の情報を得ることは、支援のためのネットワークづくりを促進することにつながります。おきなわ子ども支援ガイドブックは、ネットワークづくりに資することを目的に作成されました。

 今回の学習会が、さまざまな立場の方たちが実践を交流し、子ども支援のつながりと更なる広がりのきっかけになれば幸いです。

2014年11月25日火曜日

5歳児問題に対する取り組み

 沖縄の幼稚園は、沖縄が戦後、アメリカの施政下にあったために、他県とは違った普及を遂げます。
 沖縄では、ほとんどの公立小学校の敷地内に公立の幼稚園があります。多くの幼稚園は5歳児を受け入れることに特化し、その設置場所から小学校の準備段階の教育施設、準義務教育という位置づけが県民の一般的な認識です。その影響で保育園における5歳児保育の整備が立ち遅れました。
 保育に欠ける5歳児は保育園、そうでない5歳児は幼稚園という棲み分けができていません。共働き世帯の5歳児の放課後を、親に代わって見守ってきたのが学童保育です。沖縄で特例として行われてきた、学童保育の幼稚園児の利用はこのような背景から生まれたものです。第二次世界大戦で戦場になり、その後、基地の島として長らくアメリカの施政下におかれた歴史が、子育てにも影響しているということです。
 しかし、来年度から始まる子ども子育て支援新制度は、幼稚園児の学童保育利用を認めていません。5歳児問題といわれるこの現状に対し、行政の取り組みも少しずつ明らかになってきました。
 待機児童を抱える保育園に、5歳児保育の整備を行うことが困難なことから、5歳児問題の対策として、多くの自治体が幼稚園における預かり保育の拡充を検討しています。
 そのなかで夏休み期間や土曜日における預かり保育の実施が、5歳児を育てる保護者の切なる願いではないでしょうか。