2013年11月26日火曜日

病気のために長期にわたって欠席するリスクのある子どもたちの教育

 
 沖縄県の特別支援学校編成整備計画の中で、県立森川特別支援学校の休校が位置づけられている。慢性疾患や精神疾患等により長期に入院を余儀なくされた子どもたちの教育を保障するのが、病弱・虚弱の子どもたちを対象とする森川特別支援学校である。編成整備計画では、鏡が丘特別支援学校に病弱教育の機能を集約させるとされている。しかし、病気により長期にわたって自宅療養をしている児童や通学が安定しない子どもたちの実態についてはよく分かっていない。他県の病弱教育の現状を踏まえ、沖縄県における病弱教育のあり方について考えてみたい。

1 他県における病弱教育の動向

(1)病弱・身体虚弱特別支援学級の増加

 「小中学校に在籍する『病気による長期欠席者』への特別支援教育のあり方に関する研究」(平成22年独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)では小学校の学校内特別支援学級(病弱・身体虚弱特別支援学級)数は,平成 14 年に 214 学級であったが,平成 21 年には 642 学級となり,3倍に増加した。また中学校の学校内特別支援学級数(同上)は,平成 14 年以降増加しており,平成 14 年に 87 学級であったが,平成 21年には 245 学級となり,2.8 倍に増加した。特に平成 18 年に 131 学級であったが平成 21 年には245 学級と急増していることが報告されている。


 また、平成24年度学校基本調査の結果によると,病弱・身体虚弱特別支援学級は全国に1,325学級あり,平成6年頃に比べると約2.5倍に増えている。また,全国病弱虚弱教育研究連盟が実施した平成24年度施設調査によると,病院内にある特別支援学級は248学級であった。これらのことから,おおむね病弱・身体虚弱特別支援学級の内,病院内に設置された学級は20%未満であり,80%以上が小中学校内に設置された学級であるといえる。


(2)心身症や精神疾患等の児童生徒の増加

 全国の特別支援学校(病弱)110 校に実施したアンケート調査の結果,対象児童生徒の中で心身症・精神疾患等の人数は,小学部 1,272 名中 179 名(14.1%),中学部 1,194 人中 463 名(38.8%),高等部 1,440 人中 534 名(37.1%)で,全体で 30.1%であった。平成 15 年度病弱教育研究部国内調査「病弱養護学校における心身症等の児童生徒の教育―『心身症等など行動障害』に括られる児童生徒の実態調査と教育・心理的対応―」では心身症等の児童生徒は,全体の 16.5%であったので,この5年間に,心身症・精神疾患等の児童生徒が大幅に増えたことになる。


2 県内の病弱教育の動向


(1)病気による長期欠席者の教育

 「小中学校に在籍する『病気による長期欠席者』への特別支援教育のあり方に関する研究」(平成22年独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)によれば、「小中学校に在籍し病気を理由に長期欠席(年間 30 日以上欠席)しながら特別支援教育を受けていない子どもたちが約 46,500 人(2007 年度)おり,一向に減少する気配はない。」とあり、病気による長期欠席者が特別支援教育の対象である、と明言している。


(2)病気による長期欠席者の現状

 病気を理由に長期欠席(年間30日以上)している児童の現状

学校基本調査によると、平成24年度間に沖縄県の小学校において病気を理由とした長期欠席の児童数は405名であった。平成20年度間は395名で、平成21~25年度間に在学者数は2146名減少しているのにも関わらず病気を理由とした長期欠席の児童数は10名増加している。また、中学校においても平成24年度間で277名であった。平成20年度間は162名で平成21~25年度間に在学者数は798名減少したのにも関わらず、病気を理由とした長期欠席者は115名増加している。

(http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/school/2013/sokuhou/gaiyou/02junior.pdf)

(http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/school/2013/sokuhou/gaiyou/02junior.pdf)


(3)病弱特別支援学級の設置状況

 県内の小中学校における病弱・身体虚弱特別支援学級の設置はない。また他県では市町村教育委員会が長期入院中の児童生徒への訪問教育を実施している例があるが、本県では森川特別支援学校が8つの病院内訪問学級で行う教育のみである。


(4)病弱・身体虚弱教育の顕在的ニーズと潜在的ニーズ

 現在、県立森川特別支援学校病院内訪問学級の在籍は年間を通して30名前後で推移しており、年間数十件の転入学がある。近年は義務教育段階の児童生徒のみならず、高校生を対象にした病院内訪問学級での教育を2病院において実施しており病院において教育を受けることで単位を履修し、高等学校へ復帰していった。

 このように数値として表れている実績とは別に、小中学校に在籍している子どもたちの中で、病気等により長期欠席している児童生徒の中に、本来病弱・身体虚弱教育の対象となるべき児童が埋もれてはいないか。県外においては病弱・身体虚弱特別支援学級対象の児童生徒が年々増加しているのにもかかわらず本県だけが特異的に対象児童が存在しないということは考えにくい。現在、正確な実態が把握されていない現状に光を当て、本県の病弱・身体虚弱教育の今後を見定めることが必要である。


3 今後の取り組みの方向性
 かつて特殊教育が義務化される以前、創設準備から開校にいたる過渡期にあった沖縄県立美咲養護学校の教諭たちが行ったのは、障害児を探すことであった。就学猶予という名目で教育を受ける権利を失い、家庭でひっそりと生きてきた障害児を、戸籍を頼りに見つけ出し、親を説得し学校に連れて行くことが仕事だったという。つまり創生期の特別支援学校はニーズから生まれたのではなく、ニーズを作り出す過程で成立したと言える。

 沖縄では病気により長期に欠席するリスクの高い子どもたちが、特別支援教育の対象であるという認識が広く共有されることがなかった。病気の治療が最優先されるべき、という認識に対し病院内訪問学級における教育が子どもの治療効果の向上につながっているという指摘がある。また治療中の子どもの心の居場所として、病院内訪問学級に集まる子どもたちのコミュニティーが必要だと話してくれた医師がいた。障害でもなく、さりとて普通教育からも十分に手が差し伸べられていない子どもたちについては

 今後、学習の空白をなくす取り組みを早急に進めなければならない。今できることは、実態の把握のための調査と、ニーズを生み出すための取り組みである。



 

第7回九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会に向けて

 平成25年度の全国学力・学習状況調査において、沖縄は引き続き小学生の教科の一部、そして中学生の全ての教科の平均正答率が最下位という結果になった。このニュースが新聞紙面を賑わしたが、学力の低下が、学校・子どもたちの問題としてでなく、沖縄の社会全体の課題として共有されているだろうか。

 学びは、社会参画をとおして自己実現を図るために必要な力を獲得する営みであると同時に、地域社会の構成者を育成することである。つまり子ども一人ひとりの学びの保障は、沖縄県を持続可能な社会として構築していくための必須条件なのである。

 沖縄の子どもたちの学びの獲得を困難にしている要因は何か。全国学力・学習状況調査では、保護者の経済状況と子どもの学力の相関関係が指摘されている。また福岡県人権同和教育研究協議会が福岡県内の4つ小学校を調査研究校として、10年間にわたって行った調査研究の報告書「40人学級における学力保障にかかわる少人数学習の研究」の中では、地域コミュニティーの弱体化や親・大人たちの貧困など問題が、重層的かつ複合的に子どもの学びや育ちに影響を及ぼしていることを明らかにした。同時に、家庭的に厳しい状況にあっても確かな学力を獲得していった子どもたちがおり、その背景には親を支える地域のコミュニティーや行政、ボランティア等の支援機関のかかわり、学校教職員の丁寧な取り組みが存在したと報告している。

 沖縄県でも子育てや教育、親支援に取り組み、実績をあげている事例がある。糸満市のNPO法人「いっぽの会」など、地域と連携してひとり親世帯の母親の就労支援や子育て支援に粘り強く取り組んでいる例、また「地域若者サポートセンターなは」のように、県立高校の校舎内にスペースを設け、高校生の居場所づくりと不登校の課題に協働して取り組んでいる実践などである。

 これらの事例は、子どもの学びや暮らしの困窮に遭遇した時、私たちが取り組むべきことは子どもの学びや家族の暮らしに関わる人たちが顔と顔の見える関係=ネットワークを構築し、チームとして課題に向かうことであることを示している。

 九州・沖縄地区子ども支援ネットワーク交流学習会実行委員会では、2012年と2013年に「公益信託宇流麻福祉基金」と「おきぎんふるさと振興基金」の助成を受け、子育て支援の社会資源をまとめた「おきなわ子ども支援ガイドブック」を作成した。

 その取り組みを発展させるために、下記のとおり今年12月7日(土曜日)に沖縄大学で第7回の学習会を開催する。子育て支援や親支援を行う参加者が日頃の事例や取り組みの実践や課題を共有する場とし、新たなネットワークの広がりの場、課題解決の糸口の見つかる場としたい。


日時:平成25年12月7日(土)9:30受付、10:00~16:30

場所:沖縄大学3号館101教室

参加費:1000円

内容:

1 基調提案

2 模擬ケース会議及び交流