2012年2月2日木曜日

「子どもの未来を守る~子どもの貧困・社会排除問題への荒川区の取り組み~」について

子ども手当、高校授業料の無償化など、子育てに対する国レベルの施策が、ようやく始まったばかりにも関わらず、財源問題にすり替えられて先が見えない状態が続いています。
そんななかで、沖縄でも宜野湾市の生活保護世帯の児童への学習援助など、自治体単位での子どもの貧困に対する取り組みが進められています。

子ども支援ネットワーク交流学習会でも、前述の宜野湾市の保護課の取り組みや要保護児童対策連絡協議会を実働させる取り組みなど、沖縄や九州各県の自治体各課の取り組みが紹介されました。しかし、一つの県、あるいは市町村の首長が、子どもの貧困の問題を自治体が直面してる喫緊の課題であることを、市民や県民に声高に訴え、重点的に施策として進めているという例を私は知りません。

本書は、荒川区という自治体が、首長のリーダーシップのもとに全体で、子どもの貧困と社会排除の問題に取り組んだことを紹介しています。

荒川区では、子どもの不幸の要因の一つである子どもの貧困・社会排除問題の解消を、優先的に取り組むべき課題の一つとして位置付け、平成21年にまず現状を把握する手段として、区長を委員長とし関連部長で構成した「子どもの貧困問題検討委員会」を 庁内に設置し、その下に関連部署の課長からなる作業部会を設置して、区内の現状の調査研究を開始しました。

区による実態把握は、以下のように進められました。

委員会では、荒川区や都道府県の生活保護率や就学援助率など、子どもの貧困についての全体像を示すデーターや資料を収集しました。
さらに区内の保育園、幼稚園、小中学校、学童クラブ、子ども家庭支援センターなどに対し、子どもの貧困や社会排除状態にあると思われるケースについて聞き取り調査を行い実態や原因の調査を行い、既存の施策がこれらの問題の解決にどれだけ寄与しているかについて、各部署を通じた検証を行いました。

 数値による実態の客観的は把握だけでなく、子どもや家族のケースを調査しています。

 さらに「荒川区自治総合研究所」を設立し、その中に専門家で構成された「子どもの貧困・社会排除問題に関する研究会」と「子どもの貧困・社会排除問題に関するワーキングチーム」を設置して、調査研究に本格的に取り組んでいきました。

研究所では平成22年に中間報告をまとめ、それを受け、まず「スクールソーシャルワーカー」の配置、次に外国人児童生徒に対する日本語指導などの支援、「子ども家庭支援センター」の相談機能の充実などの施策を始めます。

中間報告後、区は研究会の構成に現場担当を増員するなど組織の強化を図り、新たに「子どもの貧困・社会排除問題対策本部会」など、研究体制の充実を矢継ぎ早に行っています。
それにより、収集したケースについての分析を深め、子どもが貧困や社会排除の状態に陥る「リスク」と「決定因子」があることを導き出し、最終報告のなかで、区の今後の方向性「あらかわシステム」について提言を行いました。

あらかわシステムとは、子どもの貧困や社会排除のリスクをもつ世帯、あるいは子どもの貧困・社会排除の状態に陥った世帯の発するサインを発見し、その状態の解消、あるいは回避へ導くための区の体制を意味します。
それは、子どもの貧困や社会排除の状態にある世帯を、既存の施策にあてはめるだけではなく、実態の把握と分析の上に立って、施策や行政、地域の資源とを連携させることで、個々の世帯の状況に適応させていくことを目指す行政のシステムの在り方として、他の自治体のモデルとなるものではないでしょうか。

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